アルトナーの博士たち― 物理系博士が語る、研究経験を活かしたエンジニアのキャリア

物理系の博士課程を修了し、現在は自動車メーカーで活躍しているNさん、Oさん、N.M.さん。3名は、物理学の研究で培った専門性や論理的に考える力を土台に、自動車開発をはじめとするモノづくりの現場で経験を重ねています。
学術に長く携わってきた経験は、エンジニアの業務にどのように活かされているのでしょうか。今回は、博士課程へ進んだ理由やアルトナーへの就職を選んだ背景、現在の業務で活きている力、実務でのAIの活用法など、幅広くお話をうかがいました。
(取材・記事執筆:アルトナー取材班)

Profile
ハイバリューグループ
機械 N.N.

大学院 理学研究科 物理学専攻
30代
〈役職・年齢・業務内容等は取材時のものとなります。〉

ハイバリューグループ
ソフトウェア O.H.

大学院 理学研究科 物理学専攻
30代
〈役職・年齢・業務内容等は取材時のものとなります。〉

ハイバリューグループ
電気・電子 N.M.

大学院 理学系研究科 物理学専攻
20代
〈役職・年齢・業務内容等は取材時のものとなります。〉

博士課程へ進んだ理由と、研究で向き合ったテーマ

──博士課程への進学を決めたきっかけを教えてください。

N.N.(以下N):学部時代から、研究室の先生に博士課程まで来て欲しいと言われていました。私自身も、研究や実験をより深く突き詰めたいという思いがあり、博士課程へ進学しました。

O.H.(以下O):研究への興味があり、周囲にも修士課程へ進む人が多かったことから、まず修士課程へ進学しました。研究を続ける中で、さらに深く取り組みたいという思いが強くなり、研究に専念できる時間を大切にしたいと考えて博士課程へ進学しました。

N.M.(以下N.M.):学部時代から研究者の思想や議論に触れる中で、博士号に強い憧れを持っており、博士課程への進学を自然に考えるようになりました。

──博士課程では、どのような研究に取り組んでいましたか。

N:多価イオンと物質との相互作用について研究していました。多価イオンとは、原子から複数の電子を取り除いた状態のイオンです。その多価イオンを物質にぶつけたとき、どのような現象が起きるのかを調べていました。

O:物性理論の分野で、物質を数式でモデル化し、それを計算するアルゴリズムの研究に取り組んでいました。学位取得後は、その技術を量子コンピューターシミュレーションへ応用する研究にも取り組み、3年ほど大学で研究者として働いていました。

N.M.:修士課程では、衝撃波と乱流の相互作用を扱う乱流モデルの理論研究を行いました。博士課程ではテーマを変え、逆勾配拡散という熱流現象について、数値シミュレーションを用いて解析する研究に取り組みました。

──学生時代の研究で、印象に残っていることはありますか。

N:結果がある程度予測できる実験よりも、まだ十分にわかっていないテーマに挑戦する方が、明確な成果につながることもあると学んだことです。わからないからこそ一から原理を調べ、実験を重ねる中で、新しい発見につながるのだと感じました。

O:博士時代に、共同研究に参加したことです。最初はぼんやりとしたアイデアだったものを、実際に計算できるアルゴリズムとして形にし、プログラムを書いて研究に使えるようにしていきました。共同研究に貢献できたときには大きな達成感がありました。

N.M.:理論の前提条件と計算結果の良し悪しが、必ずしも一致しないと実感したことです。たとえば、私の修士課程の研究テーマである衝撃波と乱流の相互作用において、本来は、空気などの流体の速度がなだらかに変化する場合を想定した理論を使うのですが、衝撃波では速度が急激に変化するため、その前提から外れます。それでもあえて適用してみると、意外にも現象を説明できる良い結果が得られました。一方で、前提条件には合っているように見える別のテーマでも、計算結果が期待した現象を再現できないこともあります。理論上は正しそうに見えても、実際に試してみるまでわからない。その難しさと面白さが、研究の醍醐味だと感じました。

アカデミアではなく、モノづくりの現場へ進んだ理由

──博士課程修了後、民間企業への就職を選択した理由を教えてください。

N:私の研究分野は非常に専門的で、企業でどのように活用されるのかイメージが持ちにくい部分がありました。だからこそ、実際に民間企業でどのような仕事が行われているのかを経験してみたいと考え、就職を選びました。

O:学位取得後は、3年半ほどアカデミアで研究者として働いていました。ただ、もともとどこかのタイミングでアカデミアを離れ、民間企業で働くことも視野に入れていました。アカデミアでは大学教員のポストが主なキャリアの一つになりますが、私は教育なども含めた大学教員としての仕事よりも、研究や技術に直接向き合い、その力を実社会に近い現場で活かしていきたいという思いがありました。子どもができたタイミングで、収入面も含めて今後の生活を考え、アルトナーへの転職を選択しました。

N.M.:新しく挑戦したい技術分野があったことが理由です。パワーエレクトロニクスやバッテリーの回路、管理システムなどの解析や設計に挑戦したいと考え、民間企業へ就職しました。

──その中で、アルトナーへの入社を選んだ理由は何ですか。

N:私は絵や芸術が好きだったので、会社名が「Art」に由来しているところに親近感を持ちました。また、様々な仕事を経験できる環境にも魅力を感じました。

O:ソフトウェアの中でも、実際のデバイスやハードウェアと連携しながら動作する組み込み系の仕事に興味がありました。プログラム単体で完結するのではなく、機器の動きや制御と関わりながらシステムをつくっていく点に、エンジニアリングとしての面白さを感じたからです。また、物理学の研究で培った数理的な基礎力やプログラミングの経験を評価してもらえたことや、収入面を含めた希望条件を実現できそうだった点も入社理由です。

N.M.:研究開発職として働けることが明確で、給料面にも魅力を感じました。自分の知識や能力を活かしながら、パワーエレクトロニクスやバッテリーの回路、管理システムといった興味のある技術分野へ挑戦できる環境だと考え、入社を決めました。

専門領域を越えて挑む、エンジニアの仕事

──現在は、どのようなプロジェクトに携わっていますか。

N:次世代電池の研究開発プロジェクトで、電池材料の分析業務に携わっています。

O:自動運転分野で、ソフトウェア基盤部分の開発やインテグレーション業務を担当しています。

N.M.:エアバッグ制御ECUの仕様整理や、次世代自動車に向けた検討業務に携わっています。業務効率化のための簡易ツール作成も担当しています。

──実際の業務では、専門領域以外の知識も必要とされますか。

N:私の専門領域は機械ですが、業務は電池の研究開発なので、電気・電子の知識はもちろん、化学の知識も必要になります。さらに、簡単なマクロを組む場面ではソフトウェアの知識も必要です。幅広い領域の理解が必要だと感じています。

O:私はソフトウェアが専門領域ですが、組み込み系の業務なので、ハードウェアについての知識もあると、より価値を発揮できると考えています。

N.M.:私は、ソフトウェア、電子・電気、機械といったそれぞれの領域の知識に加えて、システム設計の知識が必要だと感じています。何が要求されていて、その要求からどのような機能が必要になるのかを考える力が、上流工程では重要になると思います。

エンジニアの現場でも活きる博士課程で培った力

──物理学を専攻した経験から、業務に活きていることや自分の強みになっているものはありますか。

N:研究を通じて、実験や理論など様々な情報を組み合わせ、何が起きているのかを読み解く力が身に付きました。1つの結果だけで判断せず、複数の視点から考察する姿勢は、現在の業務にも活きていると感じます。また、現象を原理から考える力も強みです。自然現象の仕組みや法則を理解する視点があることで、未知の課題に対しても本質的に考察できます。

O:数理的な基礎力や文章を読み書きする力は、現在の業務にも役立っています。また、研究は基本的に思い通りに進まないものなので、うまくいかない状況に対する耐性も身についたと思います。

N.M.:未知の課題に挑みながら試行錯誤を重ね、少しずつ成長していく姿勢が強みになっていると思います。電気系資格など数式を用いる分野では理解がスムーズで、物理出身の強みを感じています。

AIを活用し、業務の効率化と理解の深化につなげる

──現在のエンジニア業務では、AIなど新しい技術を活用する場面も増えていると思います。皆さんは、業務の中でAIをどのように活用していますか。

N:業務で必要な論文を探したり、新しい業務内容への理解を深めたりするために使っています。最近では、仕事の中で起きた現象について「なぜこういうことが起きるのか」を考える際に、AIと壁打ちをしながら自分の考えを整理したり、アイデアを出してもらったりしています。

O:調べ物、翻訳、ドキュメント作成、コーディングなど、かなり幅広く使っています。特にコーディングは非常に高性能になっていて、最近は自分の手で一から書くことは以前より少なくなりました。ただ、何を作るのかを正確に理解することは、人間側に求められると思います。ソフトウェアはコードを書くだけではなく、他のモジュールとの連携も必要です。仕様を正しく理解し、AIに正確に伝える力が重要になると感じています。

N.M.:私は、簡易ツール作成のために、プログラミングの基本パーツを作る場面でAIを活用しています。すべてを任せるのではなく、必要なパーツを自分で考えたうえでAIに作ってもらい、できたものを検証して組み合わせています。情報検索にも使いますが、AIの回答には、参照元には書かれていない情報が含まれることもあります。便利な一方で、鵜呑みにせず、自分で確認しながら使うことが大切です。

学術と産業の架け橋にー博士号取得エンジニアとして描く、これからのキャリア

──将来的なキャリアのイメージについて教えてください。

N:これまでは、周囲から物理や研究に向いていると声をかけてもらい、その期待に応えたいという思いで研究に取り組んできました。今後も自分の価値を発揮しながら、期待される存在でありたいと考えています。

O:ソフトウェアエンジニアとして仕事を続けていきたいと思っていますが、変化の激しい時代なので将来像は模索中です。まずは自分がやりたいことを実現できる実力を身に付けたいです。

N.M.:学術と産業をつなぐような存在を目指しています。学術の世界で生まれた新しい技術や知見を社会に活かし、実装につなげていけたら面白いと思っています。

──エンジニアを目指す方へのメッセージ

N:研究で培った知識や考え方は、入社時には仕事と直接的に結びつくイメージが持てないこともあると思いますが、実務を通じて活かせる場面は出てきます。最初から明確な答えを持っていなくても、一歩踏み出して経験を積むことが成長につながります。

O:本気で目指していれば、意外となんとかなります。やりたいという気持ちが本心からのものであれば、自然と行動できるはずです。まずは挑戦してみてください。

N.M.:業務では知識だけでなくコミュニケーション能力も重要になります。技術的な研鑽だけでなく、普段からコミュニケーションを意識して磨いてみてください。皆さんと一緒に働き、成長していけることを楽しみにしています。

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